本書の読み方 病院経営の過程

 病院経営は、いきなり悪化するわけではありません。病院経営の悪化は、経営資源としての人・物・金・情報からサインが出され、悪くなっていきます。また経営者の交代や診療報酬の改定などをきっかけとなる場合があります。つまり経営は、徐々に悪化し、気付いたころには、手がつけられない状態になっていることも少なくないのです。この徐々に悪化していく過程を招くのは、職員に対する病院経営改革への動機づけが遅れる原因でもあります。

 一方、病院経営を良い方向へどんどん伸ばしていくことも一朝一夕にできるわけではありません。病院職員の意識が、経営改革やさらなる改善を行うことで、より良い病院にしようとする方向に向いているとは限らないのです。病院職員は、医療を提供する専門職集団であり、病院経営を行う教育をなされていません。

 病院経営の中核を担うのは、なんといっても「人」であり経営資源の中で「人」が最重要なのです。経営の基本は、ミドルマネジャーがトップマネジメントの方針を伝え、現場監督であるミドルマネジャー、現場で動くスタッフと彼ら抜きでは、病院は、医療を提供できないのです。経営状態の悪い病院では、トップマネジメントやミドルマネジャー、スタッフが、それぞれ役割に応じた仕事ができていません。「病院のトップマネジメントが適切な方針を掲げることができない」「ミドルマネジャーが現場の管理ができていない」「現場のスタッフが適当な仕事をしている」こんなことにより、優秀な職員は、やる気をなくし、病院を去っていきます。職員が減った病院は、医療サービスの質が悪くなります。そして、患者が減少します。その結果、病院経営者は判断を求められ、間違った判断をする。このような悪循環に陥りがちです。

 病院の各部門のミドルマネジャーとなったら、病院経営や管理に関する勉強をする必要があります。これまで、管理に関する勉強がなされていないため、短期間に、アウトラインをつかむ必要があります。それは病院経営や管理に関する用語に慣れることと、学んだ知識を自分たちが置かれている現場に置き換えるという真似事から実践していくことが大切です。

 病院経営のアウトラインについて理解できたら、病院内における部門の役割、ミドルマネジャーとしての自分の役割について考えてみる必要があります。病院内での自分の役割がわかり、病院経営のことを理解してきたら、病院経営にとって良い影響があることは間違いありません。病院経営は、ミドルマネジャーの一人ひとりの努力によって、成り立っているのです。筆者は、病院経営を左右する要因は、ミドルマネジャーの管理能力だと思っています。